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オルナ(Orna

分類魔剣
表記◇オルナ(マイヤー)
◇Orna(マイヤー, Ellis), ◇Ornai(O'Curry)
語意・語源??
系統神話物語群
主な出典◇『マグ・トゥレド(モイトゥラ)の戦い(Cath Maige Tuired)』?
神話物語群の中で最も重要な物語。多数の稿本があったと思われるが、現在では二つしか残っていない。中世アイルランド語の古い稿本は、おそらく11世紀に書き留められ、16世紀の写本に残されている。後代の稿本は、初期近代アイルランド語時代に現存する形が成立、1650年頃の写本が残る。物語の主題は、トゥアタ・デー・ダナンとフォウォレとの戦いで、後代の稿本が決戦の叙述に終始しているのに対し、古い稿本は争いに至るいきさつも描いている。また、古い稿本では、フォウォレ側で戦ったブレスが犂で田を耕す技術・種まき・収穫をトゥアタ・デー・ダナンに教えることで赦免されているが、後代の稿本ではルグによって討たれている。(マイヤー)
参考文献◇健部伸明と怪兵隊 『虚空の神々』 新紀元社, 1990.5
◇アーサー・コットレル(松村一男ほか訳)『ヴィジュアル版 世界の神話百科』 原書房, 1999.10
◇ベルンハルト・マイヤー(鶴岡真弓監修, 平島直一郎訳)『ケルト事典』 創元社, 2001.9
◇アクセル・オルリック(尾崎和彦訳)『北欧神話の世界 神々の死と復活』 青土社, 2003.11
◇Eugene O'Curry, The Fate of the Children of Tuireann, Atlantis Vol. IV?, 1863?
◇Peter Berresford Ellis, Dictionary of Celtic Mythology, ABC-CLIO, 1992


◆テトラの魔剣オルナ

ベルンハルト・マイヤーの『ケルト事典』(1994原著/2001訳)によれば、フォウォレの王テトラの剣には「オルナ(Orna)」という名がつけられている。「テトラ Tethra」の項の一部を以下に引用しよう。

『マグ・トゥレドの戦い』では,オグマは戦場でテトラの剣オルナ Orna を見つける。オグマが鞘から剣を抜いて清めると,剣はそれ自身が成し遂げた業績を語る。(p.155)

この剣の名を挙げる邦語文献は、管見の限りにおいて、この『ケルト事典』のみである。ただ、「オルナ」という剣の伝承が存在することは確かなようで、Peter Berresford Ellis, Dictionary of Celtic Mythology, 1992 には、"Orna"という項目がある。内容は次のとおり。

The Sword of Tethra, the Fomorii king, which could speak and recount its deeds. Having killed Tethra at the second battle of Magh Tuireadh, Ogma claimed the sword.(p.177)

試みに訳せば、「フォウォレの王テトラの剣で、それは自身の成してきた行いについて話し、物語ることが出来た。テトラはマグ・トゥレドの二度目の戦いにおいて殺されてしまったため、オグマがその剣を我が物とした」といったところだろうか。マイヤー(2001訳)では不分明だったが、Ellis によれば、オグマが剣を手に入れたのはテトラの死後であるらしい。では、テトラを殺したのはオグマなのだろうか。



〈考察1:入手の経緯は?〉

「マグ・トゥレド(モイトゥラ)の戦い」や「オグマ」については、多くのケルト神話関連文献が取り上げているが、オグマが剣を手に入れるエピソードに言及している邦語文献は数えるほどしかない。『ケルト事典』以外でこれに触れているのは、私の知る限り、健部伸明と怪兵隊の『虚空の神々』(1990)とアーサー・コットレルの『ヴィジュアル版 世界神話百科』(1996原著/1999訳)くらいである。

健部(1990)によれば、知恵と戦いの神オーマ・グランアネッへ(Ogma Grian-ainech)の武器は、「槍と、<モイトゥラの戦い II >の時に敵の王の一人テフラ(Tethra)から奪い取った魔剣」で、「この剣には魂(あるいは魔物)が宿っていたため、オーマが初めて鞘から抜いたとき、剣は今まで見聞きしたことのすべてをオーマに語ったと伝えられてい」るという(p.44)。

一方、コットレル(1999訳)は、「モイ・トゥラの2度目にして最後の戦いにおいて、オグマはフォヴォリ族の女神ドヴヌの息子インデホを倒す。(中略)やがて恐ろしい戦いが終わり、ダーナ神族が勝利すると、オグマは戦功の褒賞として、フォヴォリ族の剣を所望する。それは、自らが行なってきたすべての偉業を語ることができる魔法の剣だった」(p.212)と述べている。

情報が断片的なせいもあり、健部(1990)とコットレル(1999訳)の記述との間には若干食い違いがあるように感じられる。コットレルはオグマが戦った相手をインデホとしている上、剣の元の持ち主には言及していないし、健部が剣を「奪い取った」としているのに比べ、コットレルは褒賞として「所望」しているからである。したがって、この二書だけでは、オグマがこの剣を手に入れた経緯は今ひとつはっきりしない。

この問題を解決するヒントは、意外なことに、北欧神話を扱うアクセル・オルリックの『北欧神話の世界』(1902原著/2003訳)にあった。同書にはケルトの「マグ・トゥレド平原での戦闘の伝説」(遅くとも9世紀には書かれたとする)に言及した部分があるのだが、オルリックはここで伝説全体を要約しており、その終わりに近い部分に問題の剣が登場しているのである。以下に引用しておく。

オグマは戦いの最中インデフと遭遇し、相打ちとなった。伝説の最後に後から付け加えられた章が語るには、オグマは戦場で巨人の王テトラの剣を発見する。彼がそれを取り上げて磨くと、剣は口を利いて、自分の為した偉業の数々を数え上げる。(p.91)

ということは、オグマは戦死した後にこの剣を手に入れていることになるわけだが…。ともかく、オルリックの言を信じれば、戦った相手はインデフ(インデホ)だが、剣の元の持ち主はテトラで間違いないわけである。また、このエピソードが後代の付加と考えられているとすれば、多くのケルト神話関係文献に取り上げられていない原因はそこにあるのかもしれない。ちなみに、同書によれば、テトラはこの戦いを生き延びているため(p.92)、剣だけがオグマの所有に帰したということになり、いささか奇妙である。いや、後代に付け加えられた部分が、それ以前の伝承とうまく繋がっていないだけなのかもしれないが…謎が増えただけ?



〈考察2:戦の勝敗と剣の行方〉

ここで、マイヤーの『ケルト事典』(2001訳)に戻ると、さらに混乱することになる。同書の「インデフ・マク・デー・ドウナン Indech mac Dé Domnann」の項には次のような記述があるからである。

『マグ・トゥレドの戦い』に登場するフォウォレの王。トゥアタ・デー・ダナンのオグマを討ち取るが,その後ルグとの戦いに敗れて討たれる。(p.29)

すなわち、インデフvsオグマの勝敗が、コットレル(1999訳)とは逆になっているのである。オグマはインデフに殺されているのだ。そこで、先に引用した Peter Berresford Ellis, Dictionary of Celtic Mythology, 1992 の"Indech"の項を見ると、こちらには"who was killed by the god Ogma at the second Battle of Magh Tuireadh."との記述があり(p.129)、インデフはオグマに殺されている。コットレル(1999訳)と同様の記述である。したがって、オルリック(2003訳)が「相打ち」としていることを含めれば、戦いの結果に関して「インデフの勝利」「オグマの勝利」「相打ち」の3通りがあることになる。これは参照した写本の相違なのだろうか。

一方、剣とオグマとの関係も今一つはっきりしない。オルリック(2003訳)によれば、オグマはこれを戦場で拾ったかのようだが、Peter Berresford Ellis, Dictionary of Celtic Mythology, 1992 の"Tethra"の項には次のような記述がある。

A Fomorii who seemed to be a sea god. He owned the sword Orna, formed by Ogma, which was, significantly, picked up by Manannán Mac Lir at the second battle of Magh Tuireadh. (p.206)

すなわち、「フォウォレの一人で海神だと思われる。彼はオルナという剣を所有している。それはオグマによって鍛えられたもので、意味深いことには、マグ・トゥレドの二度目の戦いにおいてマナナーン・マク・リルによって拾い上げられている」といった意味だろう。「意味深い」のは、海神であるインデフと、「海の子(マク・リル)」と呼ばれるマナナーンとが関係づけられているからだろうが、それは本ページの主題ではない。ここで問題にしたいのは、第一にオグマが剣の製作者になっていること、第二に剣を拾ったのがマナナーンになっていることである。この記述(と私の訳)が正しいとすると、オルナは、オグマ→インデフ→マナナーン(→オグマ?)という伝来を持つことになる。

さらにもう一書、目にとまった洋書の記述を挙げよう。それは、Eugene O'Curry, The Fate of the Children of Tuireann, Atlantis Vol. IV, 1863 である。この論考の脚注147 The Freagarthach には、以下のような記述がある。

The origin of names of swords and spears is as old in traditions as the Battle of the Second Magh Tuiredh, in which we are told that Lugh Lamhfhada captured Ornai, "the inscribed sword" of Tethra, a king of the Fomorians.

直訳すれば、「剣や槍の名前の起源は、〈長い手の〉ルグが Ornai 、すなわち、フォウォレの王テトラの「刻まれた剣」を手に入れたと言われるマグ・トゥレドの二度目の戦いのような伝説と同じくらい古い」といったところだろう(多分)。ここに見える"Ornai"が、本ページの主題である「オルナ」であることは間違いない。間違いないのだが、それを手に入れているのはオグマではなくルグである。いくらなんでも混乱しすぎだと思うのだが…。

以上、調査継続中。


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Copyright (C) 2004-2006 Akagane_no_Kagerou
2004/10/26:初版
2004/12/28:オルリック『北欧神話の世界』、コットレル『世界の神話百科』などにより増補改訂
2006/02/12:フォルダ構成の変更ついでに体裁を修正
2006/06/04:本文から〈考察1〉を分離・改訂増補、さらに〈考察2〉を追加
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