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ブルートガング(Blutgang

分類名剣
表記◇ブルートガング(マッケンジー, テッツナー)
◇Blutgang(Mackenzie, Jobes, テッツナー)
語意・語源??
系統ディートリヒ伝説
主な出典◇『ベルンのシズレクのサガ』(Þiðreks saga af Bern)?
13世紀半ばにノルウェーの、おそらくベルゲンで書かれた(あるいは翻訳編集された)ゲルマン英雄物語集成とも言うべきサガ。東ゴートの半ば伝説的な英雄Theodericus(Dietrich von Bern)および彼を取り巻く勇士たちの事蹟をその内容とする。紙写本のプロローグには、この物語が「ドイツ語で書かれた最大のものの一つ」であり、「ドイツの男達の物語と歌謡とから編んだ」と明記してあり、物語の舞台や登場人物の名称からもドイツ由来は間違いない。13世紀半ばは、ちょうど国王Hákon Hákonarson(在位1217-1263)のもとにノルウェーが北ドイツの諸都市と盛んに通商した時期で、フランス語やラテン語の南欧騎士道文学がたくさん翻訳・翻案された時期でもあった。(石川)/13世紀半ば、ノルウェーでホーコン・ホーコンソン王の時代(1217-1263)に中低ドイツ語から翻訳されたと考えられる。(菅原)
参考文献 ◇菅原邦城訳 『ゲルマン北欧の英雄伝説―ヴォルスンガ・サガ―』 東海大学出版会, 1979.7
◇フォルケ・ストレム(菅原邦城訳)『古代北欧の宗教と神話』 人文書院, 1982.10
◇佐藤俊之とF.E.A.R 『聖剣伝説』 新紀元社, 1997.12
◇ライナー・テッツナー(手嶋竹司訳)『ゲルマン神話 上 神々の時代』 青土社, 1998.11
◇ライナー・テッツナー(手嶋竹司訳)『ゲルマン神話 下 英雄伝説』 青土社, 1998.11
◇ドナルド・A・マッケンジー原著(東浦義雄編訳)『ゲルマン英雄伝説』 東京書籍, 2002.5
◇石川光庸 「シーズレクのサガ 八四〜一三六章 ヴェーレントの物語(その一)」 『ドイツ文学研究』32, 1987.3
◇Donald A. Mackenzie, Teutonic Myth & Legend, Gresham Publishing Co. Ltd., 1912
◇Maria Leach, Standard Dictionary of Folklore, Mythology, and Legend, Funk & Wagnalls Company, 1950
◇Gertrude Jobes, Dictionary of Mythology Folklore and Symbols, The Scarecrow Press, 1962


◆ディートリッヒ伝説・ハイメの剣

ディートリッヒ・フォン・ベルン(Dietrich von Bern)の伝説に登場する剣。『ベルンのシズレクのサガ』を底本とする、著述家ドナルド・A・マッケンジー(1873-1936)の再話『ゲルマン英雄伝説』(東浦義雄編訳2002)によれば、山地で軍馬を飼育していたハイメの父が、息子がベローナに旅立つ時に灰色の駿馬リスパとともに彼に与えた刀剣である。ベローナの城の中庭に馬を乗り入れたハイメは王子ディートリッヒに一騎討ちを申し込む。

互いに激しく打ち合ったが、王子の手にするナーグラリングに比べると、ハイメが振るうブルートガングの立てる響きが力弱いものだった。ハイメは武技も勇気も決して劣っていなかったにもかかわらず、やがて彼の剣にひび割れが入り、数個の破片となって飛び散った。(p.154)

剣を失ってハイメは敗北したが、ディートリッヒは彼の武勇を認め、配下の騎士の一員として召し抱えた。

ライナー・テッツナーの翻案『ゲルマン神話』(手嶋竹司訳1998)にも同様の挿話がある。ブルートガング(Blutgang)は、シュヴァーベンの国の森の中、農場を営むシュトゥーダス(Studas)という名の家族に生まれたハイメ(Heime)の刀である。彼は父親同様最も上手い馬の飼育者として世に知られていたが、十七歳の時、十二歳のディートリッヒにブルートガングをもって一騎討ちを申し込む。彼はナーゲルリングを携えたディートリッヒと戦うが、ディートリッヒの被る兜ヒルデグリムに打ち込んだ時に、ブルートガングは柄のところで二つに折れてしまう。武器をなくしたハイメはディートリッヒに降参し、以後彼の家来になった。ちなみに、テッツナーによれば、彼の名はその性格が竜のハイメに似ていることからつけられているという(上p.304,下p.348-351)。



〈先行研究批判?:ヘイムダルとは関係ありません〉

佐藤俊之とF.E.A.R著『聖剣伝説』(1997)は、北欧の神ヘイムダルの剣として、ブルトガング(Burtgang)を挙げている。中でも「ヘイムダルの剣」という小見出しがつけられた部分を全文引用してみよう。

 ヘイムダルは、雄羊の角を持っていた。これは「ヘイムダルの剣」と呼ばれている。また「ヘイムダルの頭」というと、剣という意味になる。これは、ヘイムダルがもともと角を持つ羊の神で、その角が男根のシンボルであるということをあらわしている。彼の剣ブルトガングは、もともと男性自身を意味していたのだ。
 だが、エッダにおいてこうした意味は薄れていき、彼は暗黒を象徴するロキの対立者として、光の神という特性をあらわしはじめる。ヘイムダルが豊饒のシンボルとして扱われることも、また、その剣を振るうこともほとんどなくなっていくのだ。彼がこの剣を使うのは、神々の黄昏における戦いだけである。(p.34)

何だかよく分からない神話解釈は、まあ良いとして(あんまり良くないが)、ブルトガングそのものに関する説明がほとんどないのが分かるだろう(「ブリューナク」や「フラガラッハ」と比較すべし)。それもそのはずで、そもそも「ブルトガングがヘイムダルの剣だ」という言説を載せている邦語文献は、この『聖剣伝説』以外に存在しないのである。北欧神話関連本を手当たり次第に見てまわったこともあるのだが、ヘイムダルの持つ剣の名をブルトガングとする文献にはついぞ出会わなかった。

それでは、この「ブルトガング=ヘイムダルの剣」という話は何処から湧いて出たのだろうか。『聖剣伝説』は出典を「エッダ」としているが、同書が参考文献一覧にあげている谷口幸男訳『エッダ―古代北欧歌謡集』(新潮社、1973)には、もちろんそんな記述はない。この参考文献一覧に登場する書籍の中で、この剣に言及しているのは、おそらく、Gertrude Jobes, Dictionary of Mythology Folklore and Symbols, 1962 だけだと思われる。それも、"Blutgang"もしくは"Burtgang"という項目があるわけではなく、"Sword of a hero"という項目に、その例として諸々の剣と一緒に羅列されているだけであり、なおかつ、"Blutgang of Heime"、つまり、明確に「ハイメの剣」として言及されているのである(p.1520)。

どうしてこれをヘイムダルの剣と勘違いしたのか。まず第一に、『聖剣伝説』の参考文献一覧には、ディートリヒ伝説に関する文献が一つもないことが注目される。つまり、同書の著者は、ハイメはおろか日本では馴染みの薄いディートリヒ伝説そのものを知らなかった可能性がある。そして、先の Gertrude Jobes, Dictionary of Mythology Folklore and Symbols 。実は、"Sword of a hero"の説明の中で"Blutgang of Heime"という記述を発見し、今度は"Heime"について調べようとしても、この項目がこの辞書には存在せず、代わりに行き当たるのが、"HEIMDAL(HEIMDALL,HEIMDALLR)"の項目なのである。これは憶測に過ぎないが、『聖剣伝説』の執筆者は、この"Heime"と"Heimdall"という名前の類似に惑わされたのではないだろうか。ちなみに、やはり参考文献一覧に載る Maria Leach, Standard Dictionary of Folklore, Mythology, and Legend, 1950 にも、"Heime"という項目はなく、あるのは"Heimdall or Heimdallr"だけである。

なお、『聖剣伝説』の著者である佐藤俊之氏も執筆陣の一人として加わっている、山北篤監修『魔導具事典』(新紀元社、2001.12)には、「ブルトガング」という項目は存在しない。さすがに、後になってから間違いに気がついたのかもしれない。

最後に、先に「何だかよく分からない神話解釈」として流した記述にも一応の出典があるので、その点について述べておこう。それは、フォルケ・ストレムの『古代北欧の宗教と神話』(菅原邦城訳1982)であると思われるが、その記述にはかなりの温度差がある。スウェーデン人の宗教史研究家であるというフォルケ・ストレム氏の名誉のためにも、該当箇所を引用しておきたい。

   ヘイムダッルの本当の性質を説明する試みについて、以下に手短に述べておく。
   ヘイムダッルはそもそも雄羊神、つまりかつては太古の農耕祭祀の対象であったということが主張されてきた。これについては、ハッリンスキージという名以外に、雄羊の武器であるその角を指すとみなされる表現「ヘイムダッルの剣」の中に傍証を見出しているのである。近い立場にある変種の解釈はヘイムダッルを、雄羊の姿で崇拝されたオリエントの太陽神と類縁関係にある太陽神と考える。九人の乙女=姉妹とは、太陽が毎朝生まれ出てくる海の波であろうか。あるいは、神は真の本質において月神であって、彼のホルンとは月の象徴であろうか。それとも、全く別の方向に向かっている仮説を挙げるならば、「ヘイムダッルの剣」は男根の謎めかした呼称であり、この場合、ケンニングは男根崇拝の犠牲祭儀を暗示するのであろうか。
   以上略述した諸説は実際には、究極的に全く新たな問題に帰する。諸説はそれぞれ、この神の一ないし二、三の側面に満足させる光を投げかけるようでもあるが、しかしその他の側面は不明のまま放置しておくのである。(p.150)

学術的な文章を要約する場合、適切に行なわないと内容が大幅に変わってしまう可能性がある。仮説・問題提起を断定・結論に変えるなどということは、絶対にやってはならない(当たり前だが)。



〈ネット検索:「ブルトガング」〉

◇調査日:2004/08/24
◇方法:Googleで、4,285,199,774ウェブページから検索
◇対象:ヒット数約112件、うち80件を集計
 (「最も的確な結果を表示するために、上の80件と似たページは除かれています」ということで)

項目HIT内訳
★本家「ブルトガング」?2818ブルトガング北欧神話の神ヘイムダルの剣。
ブルトガングディートリッヒ伝説、ハイメの剣。
ブルトガング具体的説明なし。
TV&PCゲームに登場する武器2715ブルトガング『ペルソナ2罪』(PS・RPG・アトラス・1999)に登場(剣)。ヘイムダルの帰還アイテム。
ブルトガング『ファイナルファンタジーXI』(PS2・オンラインRPG・スクウェアエニックス・2002〜)に登場(片手剣)。
ブルトガング『キャッスルヴァニア 暁月の円舞曲』(GBA・ACT・コナミ・2003)に登場(剣)。
ブルトガング『東京魔人学園外法帖血風録』(PS2・学園伝奇ADV・マーベラスインタラクティブ・2004/8/12)に登場(西洋剣)。
ブルトガング『DOUBLE〜ダブル〜』(Win・SRPG(18禁)・ちぇりーそふと・2001)に登場。
ネットゲームに登場する武器ブルトガング『ENDLESS BATTLE(エンドレスバトル)』(不特定多数参加型のCIGオンラインゲーム?)に登場する武器。
ブルトガング『Gladiators Station Eternal』(非同期オンラインゲーム)に登場する武器(片手剣)。
剛剣ブルトガング『HEIMDAL(ヘイムダル)』(マルチプレイ3DダンジョンRPG)に登場する武器か?
ブルトガング『電脳の章・改』(CGIゲーム・FFA2ゲーム…って何?・だたしゲーム自体は調査時点で現存しないか?)に登場する武器。
トレーディングカードゲームに登場ブルトガング『デジタルモンスターカードゲーム』(BANDAI)のカード「デュークモンクリムゾンモード」が装備している「光の神剣」の名前。
TRPGに登場する武器ブルトガング『〜神記大系〜ケイオス・アルマゲストTRPG』(TRPG)に登場。光神ヘイムダル所有の光の剣。
ブルトガングメカものTRPG(『Valhalla Knights』か?)に登場。「AM-199:ヘイムダル」(「アーマードモジュール」と呼ばれるメカの一つ)の専用武装(エネルギーブレード)。
ブルトガング『女神転生』(TRPG)のオリジナルデータ上に登場(両手剣)。「幻魔:ヘイムダル」が魔晶変化した刀剣。
種々のゲームに登場(武器以外)ブルトガングネットゲーム『Invisible Nightmare』(ただし、調査時点で無期限休止中)に登場するモンスター名。
ブルトガング『ガンヴァルキリー』(Xbox・アクションシューティング・SEGA・2002)に登場するボス名?
ブルトガング『Final Crest(ファイナルクレスト)』(定期更新型ネットRPG・有料)に登場する装飾品の名前。
その他ブルトガング『アーマード・コア ネクサス』(PS2・3D戦闘メカアクション・フロムソフトウェア・2004)のグラオ系の機体(アーマード・コアと呼ばれるメカ)につけられた名称(ただしゲーム上にこの名称が登場するわけではなく、サイト管理者による自作機の名称かと思われる)。
ブルトガング=グラフォード「INTRPGチャット」(岡田芽武『シャドウスキル』(マンガ)の世界でのなりきりチャット)で使用されているキャラクター(20代前半・男性・傭兵)。
ブルトガングオリジナル格闘ゲームに「登場させたい」自作キャラクター(イラスト有)の技名。
嵐捲刃(ブルトガング)自作小説に登場する技(か何か)の名前。
合計80

そもそもが、それほど知名度のある武器ではないらしく、いつものように100件調べることもままならなかった※1。ただ、その中にあってブルトガングをヘイムダルに関係づけているページが計38、うち神話・伝説そのものを扱う(創作ではない)ページが18ページあったことは注目すべきだろう。ハイメの剣とするページが7ヒットだったのとは対照的で、『聖剣伝説』の影響力の大きさがうかがわれる。「ブルートガング」ではたった4ヒットしかしなかった(2004/09/19現在)ことも、それを証明するだろう。神話ネタが満載されていることで有名な女神転生シリーズの『ペルソナ2 罪』や、コンピューターRPGよりも設定を重視する(ような気がする)テーブルトークRPGでわざわざヘイムダルとの関連づけがなされているのも興味深い。

もちろん、創作上はどのような設定にしても問題ないわけだが、神話・伝説を扱おうとするサイトでそれをやるのは如何なものだろうか? ヘイムダルについて書いているにもかかわらず、北欧神話関係の本にあたっていないのか? 何とも不思議である。なお、ブルトガングをハイメの剣とするページは7つあると言ったが、この内訳を見ると、こちらの情報源もほぼ一つに絞られることが分かる。7つの中には、岡沢秋さんの管理するサイト『無限∞空間』内のページが3、その岡沢秋さんが発言されている別サイトの掲示板が2、『無限∞空間』を参考にし、岡沢さんから情報提供を受けているというサイト『風臥』が1、含まれているのである。つまり、6/7が岡沢秋さん関連!ということで、ハイメの剣ブルトガングについて詳しく知りたい方には、『無限∞空間』をのぞいてみることをオススメする以外にない(「連絡通路」のリンクからどうぞ)。

※1 : ちなみに、ディートリッヒ自身の剣、「ナーゲルリング」で検索すると、ヒット数約19件!(「ナーグラリング」ではゼロ:どちらも2004/09/19現在) おそらく、日本ではディートリッヒ伝説そのものの認知度が、ニーベルンゲン伝説などに比べてかなり低いのだろう。112件とはいえ、「ブルトガング」という「名前」の知名度をそこまで上げたのは、明らかに『聖剣伝説』の功績であると思われる。


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Copyright (C) 2004-2007 Akagane_no_Kagerou
2004/09/19:初版
2004/10/17:〈先行研究批判?〉ほか加筆
2007/01/27:「表記」欄を追加、細部修正
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