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カラドボルグ(Caladbolg

分類魔剣
表記◇カラドボルグ(コグラン, スナイダー, マルカル)
◇カラズ・ボルグ, カラズコルヒ(コットレル)
◇クラドボルグ(ツァイセック)
◇Caladborg(マルカル)
◇calad bolg(コグラン, スナイダー), ◇Caladbolg(MacKillop)
◇Calad-Colc, Calad-Bolg(マイヤー)
◇Cladcholg(Ellis)
語意・語源◇「硬い稲妻」(コグラン), ◇「固い稲妻」(スナイダー), ◇「雷の激しい一撃」(マルカル), ◇"hard dinter"(Ellis)
系統アルスター物語群
主な出典◇『クアルンゲの牛捕り』 (Táin Bó Cuailnge)?
「クーリーの牛争い」「トェン・ボー・クールニュ」とも。アルスター物語群中で最も長く、最も重要な物語。コナハトの王夫婦アリルとメドヴが、牡牛ドン・クアルンゲを略奪するため大軍を率いてアルスターに侵攻、これにアルスターの英雄クー・フリンが立ち向かう。最古の稿本(第一稿本)は、『赤牛の書』(1100年頃)、『レカンの黄書』(14世紀)、16世紀の二つの写本に残るが、これは出所の異なる更に古い原典を編纂したものなので、記述の重複や矛盾がある。これを整理した第二稿本は、『レンスターの書』(1160年頃)、17-18世紀に成立した他の写本に残る。さらに、第二稿本を編集した第三稿本が、15-16世紀に成立した二つの写本に残っている。(マイヤー)/なお、ツァイセックの再話が何にもとづくものなのかは今のところ不明。
参考文献 ◇ローナン・コグラン(山本史郎訳)『図説 アーサー王伝説事典』 原書房, 1996.8
◇M.J.グリーン(市川裕見子訳)『ケルトの神話』 丸善, 1997.5
◇イアン・ツァイセック(山本史郎、山本泰子訳)『図説ケルト神話物語』 原書房, 1998.6
◇アーサー・コットレル(松村一男ほか訳)『ヴィジュアル版 世界の神話百科』 原書房, 1999.10
◇ベルンハルト・マイヤー(鶴岡真弓監修、平島直一郎訳)『ケルト事典』 創元社, 2001.9
◇クリストファー・スナイダー(山本史郎訳)『図説アーサー王百科』 原書房, 2002.3
◇ジャン・マルカル(金光仁三郎、渡邉浩司訳)『ケルト文化事典』 大修館書店, 2002.7
◇Peter Berresford Ellis, Dictionary of Celtic Mythology, ABC-CLIO, 1992
◇James MacKillop, Dictionary of Celtic Mythology, Oxford University Press, 1998


◆無敵のクラドボルグ

イアン・ツァイセックの再話『図説ケルト神話物語』(1996原著/1998訳)によれば、アルスターの勇士フェルグス・マク・ロイ(フェルグス・マク・ロイヒ※1)は、「無敵のクラドボルグ」という魔剣を持っている(p.120)。フェルグスはアルスターの英雄クーフラン(クー・フリン)の養父だったが、クルフーア(コンホヴァル)王がウシュナ(ウシュリウ)の息子達を裏切り、彼らを殺害したことに怒って(この点は同書には書かれていない。詳しくは「ゴーム・グラス」他の項参照)、アルスターを去ってコナハトに亡命していた。そのため、アルスターとコナハトとの戦い「クーリーの牛争い」において、フェルグスはコナハト側として、クルフーア王やクーフランと戦うことになるのである。なお、同書第一章「トェン・ボー・クールニュ」の中で、この剣はクルフーア王に向かって振り下ろされるが、フェルグスと同じ理由でコナハト側についていたコルマク(他書によればコンホヴァルの子息)は殺さないよう嘆願する。

 目の前にいるのがクルフーアだと悟ったフェルグスは、憤怒に燃え上がりました。ふたたび自らの剣無敵のクラドボルグを振りあげ、振りおろそうとしたその時です。コルマクが駆け寄り、フェルグスの足下に身を投げ出しました。そうして膝まずきながら、王を弑するなどという祖国を裏切る真似はやめてくれと嘆願しました。フェルグスは一瞬ためらってから同意しました。ただし、クルフーアが主将の座を退くという条件つきです。そして国王の首をうちとるかわりに、フェルグスは剣を横に向け、三つの小丘のてっぺんを切り落としました。(p.120)

この後、戦場にクーフランが現れ、フェルグスはクーフランとの約束を守って戦場を去っている(この約束は有名なので、知らない方はケルト関係の書籍で確かめていただきたい)。なお、ツァイセックはこの剣について、「エクスカリバーの遠い祖先かもしれない」と述べ、「虹の端から端までの長さに伸び、丘のてっぺんをそぎ落とす力がある」とその能力を説明している(p.49)。

※1 : 以下、ツァイセック(1998訳)のカナ表記とベルンハルト・マイヤーの『ケルト事典』(1994原著/2001訳)の表記が異なる場合に、『ケルト事典』の表記を括弧内に示す。



〈考察:「カラドボルグ」ってどんな剣?〉

しかし、この剣に言及している邦語文献は数えるほどしかなく、その記述には簡略なものが多い。アーサー・コットレルの『ヴィジュアル版 世界の神話百科』(1996原著/1999訳)は「カラズ・ボルグ(カラズコルヒ)」という魔術的武器に「フェルグス・マク・ロイヒの」という形容句をつけているが(p.282)、それ以上の説明はないし、ベルンハルト・マイヤーの『ケルト事典』(1994原著/2001訳)「カレドヴルフ(Caledfwlch)」の項には、「この語は,アイルランド語でCalad-ColcまたはCalad-Bolgに対応する。『クアルンゲの牛捕り』で,武者フェルグス・マク・ロイヒの剣はこう呼ばれる」とあるが(p.68)、ここにもそれ以上の記述はない。

また、ローナン・コグランは『アーサー王伝説事典』(1991原著/1996訳)の「エクスカリバー」の項で、このカラドボルグという剣について触れているが、「カラドボルグはアイルランド伝説の英雄たちが佩びた剣の名で、calad(硬い) bolg(稲妻)が由来である」(p.84)と述べるだけで、フェルグスの名前は挙げていない。クリストファー・スナイダーの『図説アーサー王百科』(2000原著/2002訳)も同様で、エクスカリバーについて述べる中に「calad=「固い」とbolg=「稲妻」からできた剣カラドボルグ―それは、アイルランド伝説の英雄たちがおびた剣であった」との記述があるのみである(p.138)。一方、M.J.グリーンの『ケルト神話』(1993原著/1997訳)には、フェルグスについて「彼は虹のように長い、魔法の剣をたずさえている」という記述があるが(p.43)、その名称は明らかになっていない。

さらに、ジャン・マルカルの『ケルト文化事典』(1999原著/2002訳)にいたっては、「カラドボルグ(Caladborg)」を「トゥアタ・デ・ダナンの魔法の剣で、ヌアドゥ王の持っていた」剣としている。同書によれば、この「剣を横領した者は、その手にやけどを負った」といい、その意味は「雷の激しい一撃」で、「アーサー王のエクスカリバーに匹敵する剣である」という(p.42)。さらに、この剣は「トゥアタ・デー・ダナンが、世界の北方の群島から持ち帰った4つの魔法の品の1つである」と明言し(p.28)、フェルグスの名前は何処にもあらわれない。これが正しいとすると、カラドボルグはこのサイトが別項で扱っている所謂「クラウ・ソラス」と同一の剣ということになるのだが…。それとも、スペルの微妙な違い(CaladbolgとCaladborg)が、持ち主の違いをあらわすとでも言うのだろうか。

たまたま目にとまった洋書の記述も挙げておこう。Peter Berresford Ellis, Dictionary of Celtic Mythology, 1992 の"Caliburn"の項には、"This seems to be cognate with Cladcholg, "hard dinter," the sword of Fergus."との記述があり、やはりこの剣をフェルグスのものとしている(p.56)。アーサー王の剣"Caliburn"と語源を同じくし、"hard dinter(激しく打ち込むもの?)"の意だという。

また、James MacKillop, Dictionary of Celtic Mythology, 1998 の"Caladbolg"の項には次のような記述がある。"The lightning sword belonging to several early Irish heroes, notably Fergus mac Roich. With it Fergus chops off the tops of three hills in Meath."(p.64-65) つまり、「古代アイルランドの幾人かの英雄、特にフェルグス・マク・ロイヒが所持していた稲妻の剣。フェルグスはこの剣でミースの三つの丘の頂上を切り離した」ということだが(この訳あってます?)、この文章の後半部分「三つの丘」云々のくだりは、ツァイセックの再話とよく合致している。

さらに、「フェルグスが一番有名だが、他にも何人かのアイルランドの英雄たちが使った」という前半部分は、コットレル&マイヤーとコグラン&スナイダーの記述との折衷と言えるものだろう。固有の名前を持つ剣の所持者が一人に限定されず、幾人かの手を渡り歩くということは十分にありえることに思える。ただし、現状では、フェルグス以外の誰がこの剣を所持していた経験があるのか、どのような経緯でフェルグスの手に渡ったか(もしくはフェルグスの手を離れたか)、私には分からない。また、マルカル(2002訳)の記述を信じるなら、ヌアドゥ→??→フェルグスという伝来を考えることも可能だが、アルスター物語群中で著名だった剣の名前が、伝承の過程で神々の剣の名前にまで流用された可能性もある。以下、調査継続中。


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